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高松高等裁判所 昭和43年(や)1号 決定 1969年4月09日

請求人 八木史郎 外二名

決  定

(請求人氏名略)

右の者らからの上訴費用補償請求事件につき、当裁判所は、検察官の意見を聴いた上、次のとおり決定する。

主文

請求人八木史郎に対し金一一万三、二四〇円を、同井上進に対し金一五万三、九二〇円を、同大林浅吉に対し金六万二、八七四円をそれぞれ交付する。

理由

本件請求の要旨は、昭和四〇年七月二日高松地方裁判所において請求人大林浅吉、同八木史郎は公務執行妨害、傷害各被告事件、請求人井上進は公務執行妨害被告事件につきいずれも無罪とする旨の判決言渡を受け、右各判決に対し検察官から控訴の申立があつたところ、昭和四三年七月四日高松高等裁判所は検察官の右各控訴を棄却する旨の判決を言渡し、右控訴棄却の判決は上告期間の経過により確定するに至つた。よつて、刑訴法三六八条にもとづき、控訴審において生じた費用として、(1)請求人三名の出廷日当一六回分(現場検証出頭一回を含む)各一万六、〇〇〇円、(2)請求人井上進の出廷旅費、宿泊料一四回分七万六、二八〇円、(3)請求人大林浅吉の出廷旅費一六回分二、二四〇円、(4)右請求人三名の弁護人に対する費用合計六〇万二、九四〇円(その内訳(イ)弁護人阿河準一の出廷日当一六回分一万六、〇〇〇円、同人に対する報酬九万六、〇〇〇円、(ロ)弁護人鈴木紀男の出廷日当一四回分一万四、〇〇〇円、同人の出廷旅費、宿泊料一四回分一八万〇、〇八〇円、同人に対する報酬八万四、〇〇〇円、(ハ)弁護人尾山宏の出廷日当一一回分一万一、〇〇〇円、同人の出廷旅費、宿泊料一一回分一三万五、八六〇円、同人に対する報酬六万六、〇〇〇円)の各三分の一をそれぞれ各請求人につき合計した金額の補償を求めるため本件請求に及ぶというのである。

よつて、請求人三名らに対する当庁昭和四一年(う)第一〇八号公務執行妨害、傷害、住居侵入等被告事件記録を調査すると、請求人八木および同井上については、前記請求の要旨のとおりの一審判決および控訴審判決があり、それぞれ確定したことならびに右両名が控訴審において請求人大林および武内孝夫とともに共同被告人として併合審理を受け、全公判および検証期日の通知を受けて出頭したものであることがそれぞれ認められるから、かかる場合においてはたまたま右両名の無罪部分についての実質的な審理が行なわれなかつたとしても、その当日において生じた費用についてはその補償を受ける権利を有するものと解すべきである。

次に請求人大林については、昭和四〇年七月二日高松地方裁判所が同人に対する公訴事実中公務執行妨害、傷害の点につき無罪、住居侵入の点につき有罪の判決を言渡したところ、検察官からは右事件全体につき、請求人からは右有罪部分に限つて控訴をなしたところ、高松高等裁判所は昭和四三年七月四日右各控訴を棄却する旨の判決を言渡し、右判決に対し検察官からは上告の申立がなかつたので、前記第一審判決中無罪の部分は右控訴棄却の判決言渡後上告期間の経過により確定するに至つたことが認められる。ところで刑訴法三六八条は検察官のみが上訴した場合とその要件を規定しているけれども、請求人大林の場合は前記のとおり検察官は併合罪の全部につき控訴し、また同請求人はその一部有罪部分につき控訴をし、控訴審においては、全部併合して審理が行なわれたものであるところ、かかる場合においては、結局控訴審において生じた費用中実質的にみて自己の有罪部分以外の事実についての審理がなされた期日に生じた費用と考えられるものについては、これを国が補償するのが前記法条の趣旨から考えて相当と解せられる。

そこで前記事件記録を検討し、刑訴法三六九条、刑訴費用法二条、三条、四条、五条、七条、訴訟費用臨時措置法三条にもとづき算定すると、請求人八木史郎および同井上進については、その出廷(検証立会一回を含む。以下単に出廷という。)回数、日当、旅費、宿泊料は、それぞれ別紙計算書(一)(略)のとおりであるから、右各補償として右八木に合計金一万一、二〇〇円を、右井上進に合計金五万一、八八〇円をそれぞれ交付すべきであり、同大林浅吉については、前記趣旨に鑑みてその費用を補償すべきものと考えられる出廷回数、日当、旅費は別紙計算書(二)(略)のとおりであるから、その費用の補償として合計金八、七八四円を交付すべきことになる。

また請求人らの前記各事件における弁護人であつた阿河準一、鈴木紀男、尾山宏の日当、旅費、宿泊費、報酬(後記各計算書の報酬合計額にそれぞれ金一万円を加えた額)は別紙計算書(三)ないし(五)(略)のとおりであるが、右三弁護人は前記控訴審において相被告人として本件各請求人と共同審判を受けた武内孝夫の弁護人でもあつて、四名を同時に弁護したものであること、その他右四名の事件の難易、前記各弁護人の関与程度、各事件の審理状況、さらに請求人大林については、自ら控訴を申し立てた前記有罪部分についての審理がなされていることなどの諸点を考慮して、前記各弁護人の諸費用の補償額のうち本件各請求人に交付すべき額を算定すると、請求人八木および同井上については各金一〇万二、〇四〇円、同大林については金五万四、〇九〇円を交付すべきこととなる。

以上のとおり、請求人八木には合計金一一万三、二四〇円を、同井上には合計金一五万三、九二〇円を、同大林には合計金六万二、八七四円をそれぞれ交付すべきこととなるから、本件各請求は右範囲内で認容することとし、刑訴法三七〇条、刑訴規則二三四条二項により主文のとおり決定する。

(裁判官 呉屋愛永 谷本益繁 大石貢二)

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